笹間で在来品種のそばを復活させようという取り組みが進んでいます。ことの発端は3年前に笹間地区の種本家の倉庫でソバの実1俵分が見つかったことに遡ります。この俵は種本家のおばあさんが生前に編んでソバの実を保管していたもの。倉庫の奥に置かれ、忘れ去られていたのでした。ご家族の記憶から推測しておよそ60年前のソバの実であると判明しました。この在来のソバの実を蒔いて栽培する計画がはじまりました。

オンリーワンの味だが栽培が難しい!在来ソバの特徴とは?

一般的にソバの在来種は粒が小さく、味や香りの濃厚さが特徴だと言われています。味や香りはその土地土地で独自のもので、その土地の気候や風土の違いでオンリーワンの味わいになります。ですが、天候に左右されやすく害虫にも遭いやすいため、収穫が不安定になりがちであるという欠点も持っています。なかでも品種改良された強い他品種と交配してしまうと、在来種の特性が負けてしまうという栽培の難しさがあるそうです。

また、成長が種によってまちまちなため、収穫の際に生育段階がばらつき、まだ緑色で未成熟なものと黒く熟したものが混在することになります。こうした特性は「雑駁(ざっぱく)」と呼ばれ、在来種の味や香りに深みを与える一方で、安定した収穫ができない原因にもなっています。

わずか12粒から始まった笹間在来ソバの復活

発見された笹間の在来ソバの実2升分が笹間の弁当屋「ひなたぼっこ」に譲られ、栽培がスタート。ソバの実は丁寧に俵に包まれていましたが、長い歳月のうちに一部がネズミに食べられた跡もあり、果たして発芽するのか、生育できるのか、心配な状態だったそうです。それでも、在来種のソバを復活することを祈って、古いソバの種をきれいに洗って一晩おき、翌日に蒔くことにしました。種まきは「ひなたぼっこ」のメンバーである成瀬さんの畑で行われ、ソバの種で地面が見えなくなるほど厚く敷き、発芽を期待したそうです。

そうして2升分の種から1年目に芽を出したのはわずかに12粒。それでも笹間在来そばが復活を迎えた瞬間でした。

この芽を慎重に育てるとともに、静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センターに苗を持ち込み稲垣栄洋教授に栽培を依頼。稲垣教授の下で交雑を防ぐために隔離して栽培し、12粒だったソバの種を100粒に増やすことができました。そのソバの実を笹間に持ち帰り、本格的に栽培を開始。2年目の2020年には850グラムの収穫に成功すると、3年目には3.5キログラムを収穫。このそば粉の一部を使って、試食会を開くことができるまでになりました。

差様在来そばの試食会を開催

笹間の弁当店「ひなたぼっこ」で在来種のソバを使った試食会が開かれたのは2021年4月4日。試食会には種本家の兄弟や家族も同席し、ひなたぼっこのメンバーや静岡大学の稲垣教授と助手、ここまでの経緯を追いかけていたメディアも集まりました。かつて笹間の在来そばを食べた経験がある種本家の家族からは「当時、帰省したときに母が作って食べさせてくれたそばを思い出す。」「うちのソバはこんなに細くきれいに切れていなくて、短く太く箸でつかみにくいので汁ごとすするように食べていた」「これからこのソバが笹間の名物になるとうれしい。」と、かつて家庭で振る舞われていたそばの思い出が語られました。

栽培に協力した静岡大学の稲垣教授は「こんなに早く味わえる日が来るとは思わなかった。在来ソバならではの香りがある。」と在来ソバの復活を喜びました。

ひなたぼっこのメンバーである成瀬さんは「この在来そばを、ひなたぼっこのメニューにして多くの人に味わってもらうことができたらいい。笹間の新しい見どころになるかもしれない。」と今後の展開に期待していました。

一度は絶えてしまったと思われていた笹間の在来ソバ。60年前に地元のおばあさんが丁寧に保管していたものが、長い歳月を超えて芽を出しました。多くの人の手で育てられた、この笹間在来のそばを誰もが味わえる日もそう遠くないのかもしれません。