川根温泉の道を挟んで向かいの空き家。ただいま改修作業が進んでいます。これに取り組むのは今年の春に武蔵野美術大学を卒業したばかりの田澤杏梨さん。

田澤さんに笹間渡の空き家改修プロジェクトについて聞きました。

笹間渡の空き家改修「enプロジェクト」に挑戦中

かつて食堂と宿泊をやっていた建物を改修して、ゲストハウスとカフェにする「enプロジェクト」に取り組んでいます。

1階には宿泊、2階のカフェにはギャラリーを併設して、アート作品の展示やワークショップができる「芸術に触れることができる宿」をコンセプトにしています。体験プログラムとしては、芸術大学出身の経験を活かした茶染め体験やペインティングを企画。お客さんがenに来たきっかけで、川根を知ってもらえるような場所にしたいと考えています。

私の友人もそうなのですが、静岡県内に住んでいても川根という場所を知らない人が多い。私と同じ20代前半の同年代の人たちも川根に呼び込みたいと考えています。

改修費用をクラウドファンディングで調達

改修費用を調達するために、2021年の4月から5月にかけて「クラウドファンディング」で支援を呼びかけました。クラウドファンディングは未経験で今回が初めてチャレンジ。ウェブサイトに掲載した自分の思いに共感してくれた人たちが、会ったこともない自分のために支援してくれるという経験は本当に嬉しかったです。

改修作業は私自身がやっているのですが、クラウドファンディングの支援者の方や友人、家族にも参加してもらっています。というのも、enの改修作業のために川根に来てもらうことも目的のひとつだからです。enがオープンする前から過程の段階で、川根に関わる人を増やす機会を作っていくのが、このプロジェクトの特徴です。支援のお礼も、en宿泊セットやオープンイベントへの招待、川根の農家さん考案のセットといった、川根のことを知ってもらうことを考えた内容にしました。

建物の改修作業中も動画や写真を撮影してSNSやYou Tubeでも投稿するようにしていて、オープンまでの過程の段階自体を見て楽しんでもらえるようにしています。

田澤杏梨さんのクラウドファンディングページ
「空き家をセルフリノベーション!たくさんの人と川根を盛り上げたい!」

enプロジェクトで改修中の笹間渡の空き家

クラウドファンディングとは?

クラウドファンディングとは「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」を組み合わせた造語です。インターネットを使って広く、多数の人々から資金を調達することができる仕組みです。「新しい商品を開発したい」「社会問題に取り組みたい」といったプロジェクトをウェブサイトに掲載し、それを見て共感した人がそのプロジェクトに資金支援します。支援には返礼品やリターンが設定され、単純な寄付以外にもサービスや商品のテストマーケティングに使うことできる拡張性が特徴です。

川根町文化祭で卒業制作を展示

今回、11月1日から3日の川根町文化祭で私の作品を展示する機会をもらいました。

昨年、武蔵野芸術大学の卒業制作として作ったもので、タイトルは「川根で生まれるコミュニtea」。この作品の背景には人口減や農林業、茶業の後継者不足という地域課題があります。勉強した建築を使って、私自身が子供時代に慣れ親しんだ川根で何ができるかを考えたのが今回の作品です。地域課題の解決のためには地元の地域資源を活かすことを考えました。一つの建築で完結するのではなく、地域の中に5つの建築を設置するという「分散型建築」という手法を使っています。

実際に川根を歩き回って、この建築の拠点やコンセプトを決めていきました。建築とコミュニティというテーマは、私が在学中に継続して取り組んできたものです。私自身は旅が好きで、海外旅行やヒッチハイクの経験もあります。そこでの出会った人たちとの経験を建築に落とし込めないか、と思ったのがきっかけ。この作品の中にはenプロジェクトは含まれていませんが、意図や考え方はenにも落とし込まれています。コミュニteaで作ってきたコンセプトを、実際に実現させるための第一歩がenプロジェクトなのです。

プロジェクトのルーツは川根での子供時代の思い出

enプロジェクトで改修している建物は私の祖母の妹さんが経営していたお店「えん」が空き家になっていた場所です。私自身も小さい頃には川根の祖母の家によく遊びに来ていていました。山を走りまわったり川で水遊びをして過ごし、川根に来たらテレビゲームがなくても、一日遊んでいられてたのが川根の思い出です。

子供時代の思い出と、建築で取り組んでいたテーマ、空き家になっていた建物、が噛み合ってenプロジェクトがはじまりました。

実際に川根を歩いてフィールドワークして、子供時代には気づかなかった私の知らない場所をたくさん見つけることができました。茶畑だってこんなに広がっている光景があるとは思っていなくて、この場所を他の人に知ってもらいたいという思いが強くなりました。

田澤杏梨さんの普段の仕事や生活は?

現在は清水から通って改修作業を進めています。地元ではアルバイトをしているのですが、そこも建物をリノベーションして宿泊とカフェを経営していて、実際にen運営していくための勉強にもなっています。

建築学科の同級生は設計事務所を中心に就職を選んだ人が多い中で、私は事業を立ち上げるという選択をしました。不安よりも「やりたい」が勝っていて、実現したい、やってみたいという気持ちでenプロジェクトに取り組んでいます。

大丈夫かなというよりはやってやるぞ!という気持ちですね。

enプロジェクトの進捗やオープン予定は?

壊す作業は大体終わっていて壁や天井を張る作業を進めています。外観の塗装も下地は終わっていて、これから色を塗っていく予定です。

改修作業だけでなくカフェのメニューを作ったりと、やることはたくさんあります。いままでこういう作業は経験がなかったので試行錯誤しながら進めています。

enのオープンは2022年の3月を予定しています。オープンする際はSNSやYou Tubeでお知らせしますので、楽しみにしていてください。

田澤杏梨さんのYou Tubeチャンネル【杏channel】
instagram : 【@en_goen50】